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文としては書いているのだけど、絵に起こすのは絶対時間かかると言うか
いつになるか分からんと思ったので、続きから6年生のその後小説です。
10年後の一歩手前ですがよろしければどうぞ;
※主人公は小平太です。
※オリジナルにもほどがあるぜ!!!
※発端はモズさんとの「仙蔵を酷い目に合わせてぼろぼろになったところを救い上げたい」という会話です
※イメージソング:こ.こ.ろ.む.す.び
床に伏した息子の元へ駆け付ける父の足音はばたばたと五月蠅かった。いつも「武士たる者、どれほど落ちぶれども志は高く、平常心を忘るるなかれ」と口を酸っぱくして言う人物の足音とは思えない慌てぶりに、小平太は笑いが込み上げるのを止められなかった。それを見て枕元に座った父が怒りとも悲しみとも知れぬ涙を零す。
「口惜しや。お前はこの父に血が通わんとでも思うているのか」
袖で目端をこすり上げ、小平太の額をぴしゃりと打ち、涙を浮かべながらも厳しい目で重々しく口を開いた。
「こたび、殿に暇を頂いた」
「え、どうしてですか?」
目を丸くして驚いた小平太を、父はたわけと怒鳴りつけた。
「お前を儂の一人息子と知りながらこれほど危険な任務に行かせるお方にこれ以上仕える事はできぬ。同じ命を受けた者は殆ど死んだそうではないか」
今回小平太が受けた忍務は敵城への侵入と偵察だった。総計十人がそれにあたり、生き延びて帰ったのは小平太を含め二人だけである。そう、先に見舞いに来た忍頭に聞いていた。
そんな危険な任務に旧臣である自分の嫡男を行かせる殿の心が知れぬのだと言う。
七松家は長らくその主に仕えて来た、小さいながらも譜代の家である。小さいとは言え、忍の組織を持たなかった主家にその知識を持ち込み、以前よりも格段に優れた他国の情報を仕入れる事ができるようになったのも小平太の貢献が大きい。なのに、不当とは言わぬまでも扱いが良くないのだ。石高は増えず、一度先勝で気分の良い折にさしたる銘も無い腰の物を拝領しただけである。
お前も知っておろう、と、父は古くからの知人の名を挙げた。
「いま三河におられるが、こちらの話をしたところ奉公先に口をきいて下さるそうだ。お前も来い。忍はもうやめろ」
もともと小平太を忍術学園に行かせたのも、良い師と巡り合わせ武士の基盤を作らせるためであった。本当に忍者にさせる気などなかったのである。なのに隠密の忍術よりも戦場の早駆けを得意とする息子は、何故だか意固地に忍者隊に所属したがった。
「お前のわがままをこれまで聞いていたが、もう許さぬ。無理にでも連れて行くぞ」
どうせ果てるならば武士らしく正々堂々一騎打ちをして果てよ。名を上げ見事な散り様を見せよ。影に埋もれて
死する事まかりならぬぞ。
強く言い切った父は、しかしさめざめと泣いた。
小平太はあちこち傷で痛む身体を眺めながら、分かりましたよと呟いた。満身創痍の自分よりも、傍らの父の方が余程小さく頼りなく見える。
―――なぜ私はこんなにも父が弱々しくなるまで気付かなかったのだろう。なぜ忍にこだわったりしたのだろう。
胸に溢れるのはただただ後悔の念だった。
小平太が住み慣れた土地を離れて武士として生きる道を決めたのが十九の夏。
旧友から突然手紙がやって来て、慌てて伊作の元に駆け付けたのは半年後の事である。折しも雪の酷い年で、馬を懸命に駆らせて六日かけて辿り着いた頃には全身に雪が纏わりつき真っ白になっていた。
伊作は人里離れた山の麓で診療所のようなものをやっている。普段人があまり通らぬ道を、馬を連れて通るのは一苦労だった。息急き切って現れた小平太を迎えた伊作は囲炉裏の前に急いで連れて行き、熱い茶を出した。その囲炉裏は既に留三郎、文次郎、長次といった面々に取り囲まれている。卒業式以来、数年ぶりの再会である人物もいたが、四方山話に花を咲かせる雰囲気ではなかった。
「仙蔵は」
茶を一口だけ飲んで舌を潤すと開口一番で尋ねる。伊作が小声で「奥の座敷に。今は寝てるよ」と告げた。
「何があったんだ」
続いて尋ねる。小平太が文次郎の使いと名乗る細作から渡された手紙には、仙蔵の身が危険である事、伊作の家にすぐ来る事、その二つだけが学生時代に仲間内の遊びで作っていた暗号を使って書かれていた。
仙蔵は卒業後すぐに大名に召し上げられ忍として活躍している筈だった。影の仕事ゆえ詳細は耳に届かないが、それこそ優秀な証しである。旧友たちは彼に関しては何の心配もしていなかった。それなのに―――
「忍隊を抜け出したようだ」
文次郎が苦虫を噛み締めて言う。目を丸くしてなぜだと声高に叫んでしまった小平太の頭を横にいた留三郎が殴る。それにまた大声で返しかけた小平太の口を後ろから伊作が押さえた。
「静かにしろ。仙蔵が起きる」
耳元で囁いた伊作の声でようやく大人しくなる。
「仙蔵の身体は薬に蝕まれてる。たぶん、逃げないようにされてたんだ。身の危険を感じて、わざわざ酷い雪の日を選んで逃亡したんだと思う」
伊作のところを選んでやって来たのは、恐らくどの組織にも属していないからだろう。
突然現れたかつての優等
生の変わり果てた姿に伊作は驚き、追っ手を振り切るために負ったのであろう傷の手当てをし、忍術学園に勤めている長次へ手紙を出した。仙蔵のことは告げず急を要するとだけの内容だったが、幸い学園が長期休暇中だった長次はすぐに来てくれた。
そして事態を知るとその足で文次郎の元を訪れ、小さいながらも忍部隊を指揮していた文次郎は部下を留三郎と小平太の元へ走らせた。小平太の到着が遅れたのは一人だけ遠方に住んでいたからだ。仕事で余所に出ていた留三郎もほんの一刻前に着いたばかりらしい。
全員が揃うまでには十日以上かかった。その間伊作は薬切れの発作を起こす仙蔵を懸命に介護しながら解毒の道を探っていた。ようやく使用された薬物の見当が付いて来たところだ。
「すぐ効く薬はないんだ。何年もかけて少しずつ毒を抜いて行くしかない。それでも後遺症が残るかもしれない
けど……取り敢えずは発作が出た時に副作用のない睡眠薬と安定剤を使って何とかしてる」
問題は仙蔵の今後の身の振り方である。療養のためには伊作のところに居るのが好ましいが、ここは匿い続けるには人の出入りがありすぎると言うのだ。
「今は雪で人が来ないけど、急患が出たらそんな訳には行かないし、ただでさえ私はあちこち出掛けて留守にすることが多いから」
一人では手に負えないため皆に良い案を出して欲しいのだと言う。
学園に助けを求めるという案は、無言の内に除外された。害があると分かりながら薬を足枷として、忍を使い捨ての道具扱いするような輩である。学園が関わっていると知られては、多くの職員や生徒に迷惑が掛かってしまうかもしれない。
一様に押し黙ってしまったところで、小平太は何か小さな物音を聞いた気がして、急に立ち上がり仙蔵が寝ている奥座敷の襖に手を掛けた。他が止める前に勢い良くそれを開ける。すると、布団の中に収まっているはずの仙蔵の姿がない。奥の小窓の格子が外され、そこから雪が降り込んでいた。
「仙蔵!?」
小平太の後ろから裳抜けの殼になった部屋を覗き見た四人も目を丸くする。
「今の話を聞いてやがったか」
文次郎が舌打ちして、小平太を押し退け部屋に入り布団に触れた。
「まだ温かい。すぐ近くにいる筈だ」
よし、と声を上げて真っ先に仙蔵が出て行ったと思われる奥の小窓から身を乗り出したのは小平太だ。文次郎がそれに続き、大柄な長次は戸口に走る。留三郎は仙蔵を見つけた時に着せてやる半纏を掴んだため少し遅れたが、玄関から出るとき伊作に「ここで待っていろ」と言った。
留守番を半ば無理やり押しつけられた伊作は、溜め息を一つ吐いて小窓を立てる。確かに自分が探しに行けば雪に埋もれて二次被害を被る可能性がやたらと高いが。
ふとその時、物置と化している部屋の隅に荷物が増えていることに気付いた。夏物の着物をまとめた風呂敷が一つ、薬箱に紛れている。
―――もしかして。
伊作は雑然とした部屋の隅の、さらに奥にある押し入れに目をやった。
「仙蔵、そこにいるの?」
返事はない。しかし確信に似た気持ちで襖を開けると、やはり夏服を納めていた下の段に、風呂敷の替わりに体を丸く縮めた仙蔵がいた。
「……なぜお前が留守役なんだ」
抱き締めた膝の上に置いた額を上げないまま小さな声で仙蔵は言った。
「ふつう、土地勘のあるお前がみんなを先導するだろう」
お前でなければ、荷物が増えたことにも気付かぬだろうに。皆が慌てて出て行ったところでゆっくり準備をし姿
を消すつもりでいたのだろう。
伊作は苦笑して
「君が思ってるよりも、みんな過保護なんだよ」
と答え、仙蔵が自ら出て来るのを待った。しかし寝間着一枚のその体は動く様子がない。
「仙蔵」
「嫌なんだ」
「何が?」
「私一人の所為で、お前たちを犠牲にしてしまう。あのまま死んでしまえば良かった」
「馬鹿なこと言ってないで」
「馬鹿じゃない!」
荒れた声と同時に顔を上げた仙蔵の目には涙が溢れていた。
「私は…っ、私の所為で、お前たちを一人でも不幸にするのは嫌だ!」
叫んでそのまま震え出したのは、寒さだけの所為ではないだろう。伊作は幼子が駄々をこねるように泣きやまない仙蔵の肩を抱き締め耳元で大丈夫と呟いた。
「大丈夫だよ。誰も仙蔵の所為で傷ついたりしない。私たちは自分がそうしたいからしてるだけなんだ。絶対に
仙蔵の所為じゃない」
びくりと肩が跳ねて、それまでだらりと下がっていた手が伊作の背に伸びた。
「っ……う、うぅ…っ」
忍んでいた泣き声は次第に大きくなり、終いには赤子のように大きな叫びに変わってしまった。嗚咽を漏らしな
がら伊作にしがみついて離れようとしない彼の頭をそっと撫でる。
日が沈み、泣き疲れた彼が眠ってしまった頃、捜索を打ち切った一行が帰って来てすやすやと眠る人に脱力させられてしまった。そして小平太がどんと言い切ったのである。
「私が雇おう」
くしくも、新しい主から父が少なからず領土を拝領しており、そのうち小平太は半分を貰い受けた。屋敷と言えるほど立派なものではないが、しっかりと自分の家を持ち自立している。それに、小平太の部下と言えば老人が一人いるだけで、そろそろ新しく人を雇わねばと思っていた所だったのだ。
「私の住まいは仙蔵のいた城から遠いから追っ手の目も及びにくいだろうし、私としても実力と身元がはっきり
している家人ができるのは有り難い」
三河の地では七松家はまだまだ余所者だし、名も通っていないから佳い人を探すのは難しく、頭を悩ませている所だったのだと言う。
「仙蔵さえ良ければ、ぜひ来てくれ」
そう言われて断る理由はなかった。